PLC対応モデム

既存の電気配線(電灯線)を利用することで配線工事がいらないブロードバンド・インターネット接続の屋内ネットワークを実現するPLC(電力線通信)が、ようやく実用段階に入り始めた。MHz帯の利用が認められたことを受けて、2006年12月からベンダ各社の高速PLC対応モデムの提供が始まったのである。提供製品群はコンシューマ向けと企業向けに分かれている。海外ではすでにPLCの商用サービスも始まっている。そこで今回は高速PLC対応モデムにスポットを当てて、PLCの仕組みを紹介した上で、企業向け製品を中心に高速PLC対応モデムの最新機能から実際の使い勝手までを詳しく紹介する。

パナソニック PLCアダプター スタートパック 据置型

BL-PA510KT

PLCとは

電力線通信(PLC:Power Line Communication)とは、「商用の電力線(AC100~120V/200~240V)に高周波信号を重畳し、電力線を伝送路として双方向通信を行う方式」のことである。実はPLCは100年以上も前から存在していた技術概念であり、各時代の最新通信技術を取り入れながら進化してきたのである(下図)。

国内外の電力会社では低周波数(10kHz~450kHzの搬送波)を使用して、配電自動化システム、遠隔検針システム、遠隔異動処理システムなどにPLCを適用してきたが、これらのシステムの伝送速度は数十kbps程度であり、こうした従来方式では大容量通信に対応するのは困難であった。
 一方、現在話題になっているPLCは高速PLCであり、これはMHzオーダー(2MHz~30MHz)の高い周波数帯を用いてMbpsオーダーの情報通信を行うもので、物理速度200Mbpsの高速通信が可能となっている。モデムの通信方式、速度や電力線の状態(雑音や減衰など)に左右されるが、100m~200m程度の伝送が可能である。

PLCのおもなメリットは以下の通りである。

●既存の電気配線・コンセントがそのまま利用できるので、新規の配線工事が不要(経済的)
●プラグをコンセントに差し込むだけで接続でき、すぐに利用可能(プラグ&プレイ)
●各家庭内の各部屋間でホームネットワークの構築が可能(どこでも使える)

海外の高速PLC事情

高速PLCはすでに欧米などで普及し始めている。米国では、2001年に宅内系、2004年にアクセス系について連邦通信委員会(FCC)による規則制定が行われ、電力線搬送通信の実用化に向けた取り組みが始まり、利用可能な周波数帯は日本の30MHzとは異なり80MHzまで拡大されている。欧州ではOPERA(Open PLC European Research Alliance)でPLCの商用化が推進されており、すでに2004年には200Mbpsの高速PLC対応モデムの実証実験がスペイン、ポルトガル、ロシアなどで開始されている。そして2005年にはロシアとポルトガルで高速PLCを使ったブロードバンドサービスが始まっている。

高速PLCの原理

高速PLCは図2のような原理で動作するようになっている。電力線の周波数は関西では60Hz、関東では50Hzで、1秒間に60個または50個の山が流れてくる波になっている。この波は信号としては大変遅くて大きい。
 一方、インターネットで送受信される電気信号は、これに比べるとはるかに小さくて速い周波数が使われているので、この2つの電気信号を同じ電灯線上に流してもお互い混ざり合うことはない。そこで、図2に示すように、ビルや家のすぐ外までは光ファイバなどの高速回線でインターネットを導き、宅内ではすでに配線済みの電灯線をネットワーク回線として利用すれば、電源コンセントからインターネットにアクセスできるようになる。現在、すでに物理速度200Mbpsの高速通信が可能で、家庭内であればリピータ(信号を増幅するための中継機)なしで通信できる。

周波数の全く異なる波を一緒に送ることができる

また、電力線は、雑音や減衰の影響を受けやすい線路特性を有しているので、無線通信などで開発された技術をPLCへ適用する方法が一般的になっている。たとえば、広帯域スペクトラム拡散方式、マルチキャリア方式、OFDM (直交周波数分割多重:Orthogonal Frequency Division Multiplexing)方式といった変調方式をPLCに適用することで、高速かつ大容量通信が可能となりつつある。


広帯域スペクトラム拡散方式

データに疑似雑音を乗算して4~20MHzの信号に変換してから電力線に重畳する。この方式ではピーク電力を抑えることができるので、電力線からの漏洩電波のピーク値低減が可能である。

 

マルチキャリア方式

複数の搬送波を利用することによりデータ通信の高速化を図っている。

 

OFDM方式

各搬送波をお互いに干渉しない形で、周波数配列上に近接配置することにより、効率的な周波数利用が可能になる。現在のPLC対応モデムではこの方式がおもに採用されている。

これまでPLCは10~450kHzの周波数帯域に利用を制限されていたが、より高速な通信が行えるようにするために、2006年10月に規制が緩和され、2~30MHzを使った高速PLCを導入できるようになった。なぜ2~30MHzの周波数帯が必要だったかといえば、2~30MHzの周波数は伝送損失の増加はあるものの、機器雑音や低インピーダンスの影響が少なく、技術的にデータ通信の高速化が可能だからである

高周波数帯(2M~30MHz)利用の必要

2~30MHzでは高速通信が可能になる。

PLCの技術的課題と国内の制度概要

電力線通信は、新しく通信線を構築しなくて済むという利点があるものの、それ故の課題も多く存在している。電力線を通信線路とすることから、通信データは常にノイズの影響や線路長による減衰作用にさらされている。具体的には、以下のような課題が存在する。

不平衡線路

電力線は、高周波信号に対して不平衡(2本の電線を互いに逆の方向に流れる電流の大きさに違いが生じた状態)な線路を形成しやすく、ノイズなどの影響を受けやすい。また、そのため高周波電流を流すと電力線から電磁波が放射されてしまう。2~30MHzの周波数帯は従来から船舶・航空機通信、短波放送、アマチュア無線、電波天文観測などに利用されてきたことから、高速PLCの実用化にあたっては、こうした既存無線との共存を図る必要がある。

 

線路内ノイズの影響

使用する高周波帯域では家電機器などから発生する負荷ノイズや空中を伝播する飛来ノイズなどが電力線に重畳しPLC対応モデムに混入し、性能へ影響を及ぼす。

 

線路内ノイズの影響

使用する高周波帯域では家電機器などから発生する負荷ノイズや空中を伝播する飛来ノイズなどが電力線に重畳しPLC対応モデムに混入し、性能へ影響を及ぼす。

 

信号減衰の影響

電力線では通信距離に比例して、信号減衰量が非常に大きくなる。これは、もともと電力線が高周波信号用線路でない理由とともに、電力線に接続された末端負荷や電線路長および電線路分岐の影響があるからである。

 

そこで、短波帯を使用するPLCと短波放送やアマチュア無線との共存条件を決めるために、高速PLCと既存無線との共存モデルを作成した上で検討が行われ、以下のように告示された許容値が採用されたのである。そして、告示された許容値を満たすことで2006年10月より屋内にかぎり高速PLCの利用が認められたのである。

基本 : CISPR(国際無線障害特別委員会)の考え方に準拠
帯域幅 : 2MHz-30MHz
許容値 :(1)通信時 150KHz-30MHz : コモンモード電流
(平行に並んだ2本の銅線に高周波信号を流したときに同じ方向に流れる電流)を制限30MHz-1GHz : 10mでの電界強度を制限     
    (2)待機時 150KHz-30MHz : 伝導妨害電圧を制限

PLCの標準化動向

現在、PLCに関しては標準化等に取り組む3つの団体の動きがある。まず1つ目は米国のインテル社、モトローラ社、シスコ社などが推すHomePlug? Alliance(HPA)だ。HPAは相互接続可能な標準準拠の宅内PLC製品の促進、普及を目的に2000年4月に設立された団体で、2006年11月の時点で71社が参加している。2001年6月にHomePlug1.0 (最大14Mbps)をリリースし、すでに多数の認定製品が出回っている。また2005年8月にHomePlug? AV(最大200Mbps)仕様を発表し、IntellonがAV対応チップをリリースしている。
 2つ目はスペインのチップメーカDS2社の技術を推すUniversal Powerline Association (UPA)で、アクセス/宅内PLC技術の相互接続と共存のための仕様を検討するために2004年9月に設立された。2006年11月の時点で19社が参加している。共存仕様は2005年7月に発表されたがPLCチップの仕様は未公開。ただし、DS2社からすでにPLCチップが製品化されている。そして3つ目は松下電器産業などが中心となって推進するCE-Powerline Communication Alliance (CEPCA)である。宅内PLC技術が共存するための仕様を検討するために2005年6月に設立され、特定ベンダのPLC技術を推奨するのではなく、異なる技術の共存を目指している。2006年11月の時点で16社が参加している。共存仕様とチップ仕様は未公開だが、ここに参加している松下からHD-PLC(High Definition ready high speed Power Line Communication)という方式が提唱されている。

BL-PA510KT

BL-PA510KT PLCアダプタースタートパック ベーシックタイプ

ec current 2009/10/06 ¥13,618 で購入

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です